"愛知県名古屋市の株式会社ベーネはショップ、レストラン、和菓子、洋菓子店、カフェ、飲食店などのショッププロデュース、設計、施工、監理を行う会社です。

経済新聞コラムタイトル

 

中部経済新聞「商業デザインの景観・風景・風土」  ※ タイトルをクリックすると内容をご覧頂けます。

>>第1回 2004年10月5日
アートはアーティストに任せればいい
~どんな物件にも繊細な感性注ぐ~

 

>>第2回 2004年10月5日
憩いの空間を築きあげる
~自然素材を生かし表情ある壁実現~

 

>>第3回 2004年10月26日
発想するうえで共通認識は欠かせない
~ベクトルは合えば個性的な店舗に~

 

>>第4回 2004年11月2日
心に残らなければ、風景にならない
~五感に訴える手法で個性的に~

 

>>第5回 2004年11月9日
スケールアウトな発想で個性を訴える
~内観だけでなく、入口や外壁も~

 

>>第6回 2004年11月16日
プラスマイナスを転換する発送
~難易度高い集合ビル。地下通路に間接照明~

 

>>第7回 2004年11月30日
美しい街並みを守りながらデザイン
~店の雰囲気や内容をビジュアルに訴える~

 

>>第8回 2004年12月7日
空間デザイナーの役割
~店舗のソフトからハードをトータルにプロデュース~

 

>>第9回 2004年12月14日
三位一体の信頼関係
~職人の価値観や技量把握。予算内に収めるのが手腕~

 

>>第10回 2004年12月21日
客導線とスタッフ動線
~客席までをストーリー化。食事への期待感を高める。~

 

>>第11回 2005年1月11日
店舗のライティング
~様々なシーン演出。空間に表情与える~

 

>>第12回 2005年1月18日
店舗の空間配分
~幅広い年齢層に照準。快適空間を創造する。~

 

>>第13回 2005年1月15日
右脳と左脳
~求められるバランス。演出から客導線まで。~

 

>>第14回 2005年2月1日
B級グルメ店
~客回転と従業員効率。空間デザインで支援。~

 

>>第15回 2005年2月8日
個人店とFC店
~商品力などを分析し、マーケットを把握。~

 

>>第16回 2005年2月15日
地域に根づく和菓子店
~来店客が店内に滞在できる空間をつくる。~

 

>>第17回 2005年2月22日
地域に根づく洋菓子店
~ライフスタイルを店舗空間に織り込む~

 

>>第18回 2005年3月1日
~老舗和菓子屋の挑戦

 

>>第19回 2005年3月8日
~人材づくり ~財産となる戦力が魅力店には必要。~

 

>>第20回 2005年3月15日
街の美観や環境
~土地の持ち味や、個性を引き出す~

 

>>第21回〈最終回〉 2005年3月29日
リノベーションという発想
~旧店の失敗原因を探る。基本構造を生かして改装。~

 

中部経済新聞 2004年10月5日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第1回

アートはアーティストに任せればいい
どんな物件にも繊細な感性注ぐ

景観となるまでに十年、風景は百年、風土は千年かかるといわれていますが、これを商業に置き換えると一年、十年、百年と私は考えます。一年で終わる店もあれば十年続く店、さらに歴史になっていく店もあるということは、それぞれの店に生き方があるということです。そんな様々な生き方や考え方を交えながら、今日から毎週、商業デザインのお話を続けていきます。
アメリカンスクールに通っていた17歳の時、ディスコのアルバイトに始まり、その後バーテンなど、なぜか水商売ばかりやっていた頃、ある雑誌で倉俣史郎さんというインテリアデザイナーを知り、その人の仕事ぶりに感化されました。すごい世界だ。デザイナーになりたいと決心したのは、その瞬間でした。
デザインの学校を卒業し、名古屋の建築事務所で数年勉強し、夢を抱いて東京へ。でも、メシは食えなかった。名古屋へ舞い戻り、現場監督を数年間やりました。店舗からお菓子屋さんからスナックまで多種多様の店舗を手掛けました。その頃、ある個人オーナーと出会いました。
オーナーは長い間、保険外交員を務めていましたが、がんばりすぎてか病に倒れ、一命をとりとめました。その時、「これからの人生は『攻める』仕事ではなく、『待つ』仕事、お店を開いてみたい。小料理屋さんができたら、母親の自宅を改造してほしい」。
素材は昭和30年代の木造。一生懸命でした。ファックスを現場に持ち込み、現場監督からデザイナーまで一人何役もこなしました。木材の買い付けまで手掛け、デザイナーとしての初仕事が、私の原点となっています。
大阪の著名なデザイン事務所に席を置いていたこともあります。作品的な考えを根底に据える、作家タイプの事務所とは一線を引き、デザインは「作品」ではなく、あくまでも「ビジネス」という考え方。大型の商業施設もトータルプロデュースできるし、小さな店舗にも力を発揮する。いろんな技や引き出しを持ち、それらを適材適所に活かしている。様々な仕事舞込み、とても刺激的で勉強になり、心が解放される思いでした。
最近思うのですが、「デザイナーズ」という言葉は死語ということです。デザイナーは必要ですが、商業デザインにおいて、デザイナーが前面に出ることは今の時代、あり得ない。多額の費用を投じなくても、私たちは「いいもの」ができると確信しています。しっかりしたコンセプトがあれば、B級映画と同じです。脚本がきちんとしていて企画がおもしろければ、組み立て方次第で素晴らしい映画に仕上がるのです。
アートはアーティストに任せればいい。私は、「先生」と呼ばれていた時代のデザイナーとまったく異なります。デザイナーは、サービス業であるということを認識すべきであると考えます。作品ではなく、「商品」。あくまで商業ベースでものをつくりあげ、そこに繊細な感性を盛り込んでいくことが、私たちの本分であると考えています。

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中部経済新聞 2004年10月5日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第2回

憩いの空間を築きあげる
自然素材を生かし表情ある壁実現

デザイナーとして初めて手がけた原点ともいえる仕事に、四日市の住宅街の小料理屋「日和」があります。人が大好きな女将さんは長く保険外交員を勤め、あまりの激務で入院しました。危とく状態から生還すると、「これからは待つ仕事がしたい」と呟いたそうです。昭和三十年代の建物の実家(理髪店)を改装し、ローコストで改装してほしい。難易度の高い要望でした。さらに「自然素材だけで造って欲しい」という希望も。新建材などが氾濫している時代で、健康に気遣う女将さんとしては当然でしょう。コンセプトは「素材はすべて身体に優しい」に決めました。
人と話すことは好きだけど、酔っぱらいは嫌い。健康志向で、料理が大好き。あったかいおふくろの味を前に楽しんでほしい。人が集い、和み、そして輪がるような空間にしたい。イメージが固まり、こうして仕事はスタートしました。
限られた予算で最高のものを、時代にまどわされずに築きたい。そのひとつが土壁。ツルっとした表情、ザラっとした表情。同じ素材でも様々な表情が浮かびます。それを有効に利用すれば、表情のある壁がローコストで実現します。大きな桧(ひのき)のカウンターにしても、高価な節なしではなく、あえて節のあるものを活用しました。その方が、生命力を表現できると感じたからです。
シンプルな素材で構成し、ほんの少しだけ色を添えました。平安時代の着物の重ね色です。この配色は祝事で用いられました。女将さんの第二の人生に、エールを込めました。
外観で工夫を凝らしたのは「横の隙間」と「縦の隙間」。外から店を見た時に、ちょっと背伸びをすると、店内の雰囲気が少しだけ見えるような工夫が、横の隙間。ちょうどそこにはメニューが見えるようになっています。少しだけ敷居が高くて気品あるイメージだけど、覗いて見ればメニューは冷や奴といった庶民の味。その落差でイメージをつくり出しました。
縦の隙間には、アプローチの役割を持たせました。十坪程度のお店なため、設計的にアプローチを設けるのは無理。しかし、視覚的には存在しています。隙間から覗く細長い空間。店外から目にした瞬間から、お客はもうお店に入っている感覚に浸れます。そういうお店は、酩酊(めいてい)者にとって、敷き居は高いはずです。
日和で賞をもらい、これが契機に、常連のお客様から次の仕事を受けました。嬉しいかぎりです。常々、個人店についてこう考えています。主役はデザイナーではなくて、あくまでもオーナー。そこはコミュニケーションの空間であり、地域の憩いの場にるはずです。そういった空間をひとつずつ築く事は、意義があると考えます。街の風景となる店をつくることが、一番重要ではないかと。味のある個人店は、大手チェーン店に充分勝てる力を持っていると思います。

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中部経済新聞 2004年10月26日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第3回

発想するうえで共通認識は欠かせない
ベクトルは合えば個性的な店舗に

師匠でありクライアントでもある、創栄フードサービスの小林社長との出会いは私がまだ独立する前、小林社長の創業時でした。創業のため店にお金は掛けられない。お好み焼き屋だった30坪程の店をリニューアルしたい。とにかく最小限の費用で、おもいっきり変えて欲しい。こんな要望からコラボレーションはスタートしました。
小林社長はシェフ出身で、フロアマネージャーの経験もあり、飲食店のすべてを熟知しています。頑固な職人タイプではなく、あくまでもビジネスとして多店舗化したいという考え方でした。
小林社長の進め方は機能的につきます。「効率よく動けるか」「何分で料理が出せるか」という発想がほとんど。それに対して私達は様々なシーンに思いを巡らし、ひとつづつクリアしていく演出的発想。そういう進め方が私にとってはスムーズに運び、働くスタッフたちも理解しやすい。仲間とのベクトルは合えば当然いいものができます。
これまでに「がってん」と「はんなり」ふたつのパッケージを完成しました。「がってん」は庶民派創作居酒屋、「はんなり」は京風でヘルシーな和食創作料理。いずれもチェーン店ですが、競争力を高めるために、従来のチェーン店とはまったく異なった考え方を採用しています。
同じ店をつくることの怖さ。置き換えれば、どのような環境でも同じ店をつくろうとすることの怖さといえます。かなり危険度が高いと思います。個々の店舗に魅力がなければ、生き残りは難しいと考えているからです。私たちは、同じ店舗でもひとつひとつのお店で、コンセプトを変えています。同じ店をつくることの方が簡単ですし、仕事はスムーズですが、毎回リセットしています。
たとえば、名駅店は若年層方たちが行き交い、常に時代が変わっていく場所なため、モダンだとか禅スタイルを採用しました。住宅街というロケーションの一宮店は、情緒や安らぎを意識しました。店舗形態もビル内か、改修か、新築か、その環境に合わせてコンセプトを詰めていきます。この素材、どうやって調理すると美味しいだろうか。料理と同様です。
小林社長とは、お互いに時間の都合をつけては現地へ出向います。話をしたり、食べたり、人の動きを確認しながらぶらぶらと。東京や上海など、いろんな街にも同行しました。その時に「ちょっとこれいいね」「あれはどう?」とお互いに、目と空気で認識し合う。そういった共通認識を高める作業が、双方の認識のズレを生じさせない要因といえます。
発想するうえで欠かせない共通認識。まずはそれを持つ作業が肝要だと思います。「一任します」という進め方を、私たちは基本的に否定します。オーナーの夢や考え方、趣味などを確認する中で、発想を育んでいきます。そういった部分が、一番重要だと考えるからです。

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中部経済新聞 2004年11月2日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第4回

心に残らなければ、風景にならない
五感に訴える手法で個性的に

今回は「豆丁」という豆腐創作料理店の設計デザインを手がけた時のことをお話します。古くから豆腐の製造卸、販売をしている会社がありまして、新たな事業展開として、息子の今川さんが豆腐創作料理店、豆丁を始めました。お父さんの豆腐工場でできた、新鮮な豆腐を使用した、こだわりの店舗は人気を呼び、1号店、2号店と順調に出店を続けました。そして3号店のデザインを私が手掛けることになりました。
今川さんの進め方は、出店ごとにデザイナーを変えるというところ。店のコンセプトは不変でも、デザイナーが変われば、店のとらえ方や考え方、そして表現も変わっていく。チェーン店でありながら、店舗ごとに違った表情を持ち、しっかりと主張している。だからこそ、個々の店舗に競争力がつくのだと思います。
たとえば、SF映画の制作ならスピルバーグ、ドキュメントならマイケルムーアといったように、適材適所の人材を選択するというのは自然な思考ですよね。それと同様、次はこんな店をつくりたい。じゃあ、あの人に依頼しよう。監督を変えていく訳です。
裏を返せば、独自カラーを持っていなければ、デザイナーとしては生きていけないということになります。コンセプトをリセットするくらいの心構えでないと、似たような店になってしまう。そうなればお客様は離れてしまう。デザイナーの力量が問われるところです。
私たち昭和40年代生まれデザイナーはバブルを経験していません。つまりローコストでいいものに仕上げるのが当然の世界で、経験を積んできました。だからこそ、脚本や演出にこだわるのです。舞台は住宅街。主役はリピート客。脇役を固めるのがスタッフ。さて、脚本や演出はどうしようか。
何かを思い起こそうとする時、頭のなかにある様々な引き出しを浮かべます。たとえば、どこかでご飯を食べに行こうとなった時、あのお店美味しかった、綺麗だった、サービスがよかった、といったように引き出しを見つけて行動しているのではないでしょうか。記憶は五感の比重が大きいものです。
印象的にするために、長いアプローチをうまく利用して、赤い色を添えて。入った時の記憶に残るように、豆腐の白とワンポイントの赤のイメージ。どのような手法で記憶に残すか。しかもローコストで。ということを、私たちは常に追求しています。
記憶に残る店をつくるということは、その街が活性化してくための手助けをしていることと同じであると考えています。なぜならば、またそこへ行きたい。この土地に引き込まれていく。愛着が生まれる。そういった人の心から、文化やカルチャー、ムーブメントが生まれてくると考えています。
つくり手は、ただつくるだけではなく、その土地や歴史などをしっかりと踏まえてつくることが大切になってきます。人の心に残らなければ、その土地の風景になっていくいことは、あり得ないからです。

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中部経済新聞 2004年11月9日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第5回

スケールアウトな発想で個性を訴える
内観だけでなく、入口や外壁も

昭和四十年代後半、父親に連れられて、よく焼き鳥屋に通いました。炭火を使うから、煙が立ち込めるのは当たり前、汗噴出します。店内は活気があり繁盛していました。ところが今の人はどうでしょう。美味しいものは食べたいが、洋服は汚したくない、キレイなところで食べたい、といった要求が増えてきています。ずいぶんと欲張りになったように感じますが、そうしたニーズが私たちのような職業を発生したのでしょう。
今の繁華街は以前に比べ、若い女性同士でも歩くことができる雰囲気になりました。男性中心ではなく、誰でも楽しむことができる品のある、繁華街へ生まれ変わりました。そこには様々なサインやデザインが乱立しています。なかには異様な明るさのサインもあり、嫌悪感すら覚えます。
施主の要望で多いのが、店舗を目立たせたい、明るくしたい、少しでも大きくしたい…。でも大胆な発想のデザインは存在を誇示するだけで、顧客を誘導する志向とは異なると考えています。オーナーも、客なら誰でもいいとは思ってはいないはず。どんな客層を誘導するかが、重要なポイントになります。そのための経路作りは不可欠といえます。
ネオンが乱立する和食創作料理店を出店するとしたら、私は一端、照明を落とす事を提案します。明るさを競う中でアピールしても、埋没しまうからです。ほんのりとした暗さの入り口付近に間接照明を添える。ぼんやりと、奥に光りが見える。すると人は立ち止まります。ざわついた雰囲気の中で、一瞬、無音に包まれれるのと同じイメージです。こうした手法は一例です。私たちデザイナーは、周囲の環境や雰囲気を参考に様々な手法を取り入れています。
玄関に通じるアプローチにしても、敷地の広い狭いに関係なく、設けることを重視しています。坪単価の高いエリアでアプローチを設けるということは現実的に難しいことです。でも、どこかにその発想を採用しています。工夫次第で、限られた敷地内にアプローチのイメージを創出することは可能だからです。
繁華街というエリアで依頼を受けるケースは、ほとんどの場合がビルテナントです。誘導ということを考えると、内観だけではなく、入り口やビルの外壁も手を加えるケースがあります。ビルオーナーに直接、サイン計画を提案したこともありました。もちろん、了解が得られなかったこともありますが、少しでも可能性があるのであれば、店舗の成功のための労力を惜しみません。大切なのは、テナントという枠にとらわれない発想です。固定化した発想では、店の個性など表現できません。スケールアウトな、大胆な思考が求められます。
残念ながら、名古屋の街は寂しいと思います。とくに夜は、その思いを強くします。個性ある店が多く生まれれば、当然、人の流れにも変化が生まれます。だれでも楽しめる街づくりを支援したい。関東、関西地区から東海地区に、大手外食産業がチェーン展開をはじめている現在、地元の飲食店オーナーたちに、もっと頑張っていただきたいと常に願っています。

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中部経済新聞 2004年11月16日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第6回

プラスマイナスを転換する発送
難易度高い集合ビル。地下通路に間接照明

繁華街という条件の中で難易度が高いのは、集合ビルなどの地下にある店舗デザインです。客の誘導、店の主張で毎回、頭を悩ませます。よく目にするのは道路に看板を置いている店、またはビルの共同看板。確かにひとつの方法ではあるが、店の持ち味をアピールすることは難しい。限られた条件の中で、私たちは最大限のプレゼンが求められます。
主張するアイデアとして、たとえば地下へとつながる通路のライトアップ。間接照明を採用したり、イメージ写真を行灯(あんどん)スタイルで訴求しています。そういった主張は、ビル全体にも良い相乗効果を生みだすものです。
こうしたプランを実行するには、クライアントとビル側と何度も話し合う必要性があります。空間デザイナーとビルオーナーとのやり取りは、通常はありません。なぜなら、ビルオーナーとのやり取りは、いわば自主的な行為だからです。しかし繁盛店をつくるため、相乗効果を狙うためには、こうした話し合いは不可欠と言えます。裏返せば、交渉により、どこまで有利に展開できるかで、そのお店の明暗は分かれると思います。
地下店舗の外観ですが、通常は一面、または二面の壁で主張しなければなりません。こんなケースの導入計画としては「内と外のストーリー」をつくり出すことが大切であると考えています。たとえば、どこかにディスプレーをつくるとしたら、開口部を最大限に利用して外からでも内からでも見えるようにする。するとそこに遠近感、立体感が生まれてくる。さらにスペースの有効活用にもなる。地下であることを忘れてしまうようなスペースをつくることもできます。
天井高も、地下店舗の店内は低いところが多いため、通常の発想ではどうしても窮屈になってしまいます。しかし、それを視覚的に補うことは可能です。天井高が2.4メートルほどの、決して高くはないスペースを、ゆったりと食事ができるようにしたいとの要望があれば、スケルトンのように天井を破ってしまうのもひとつの方法ですが、地下の天井裏はスプリンクラーや換気設備が多く、簡単に天井を破ることはできません。採用したのは、床を30センチ上げた堀ごたつスタイル。天井高は下がりますが、堀ごたつに座った時は椅子に座った時よりも15センチ天井が高くなるという計算になります。圧迫感も和らぎます。
横への広がりでも、よく使う手段に、ワイドスクリーン的発想があります。壁面全体をく、天井は暗い配色にすると、天井は消えた錯覚を覚えます。壁は明るいため、逆に主張してきます。したがって空間全体は横に広がったように感じるのです。テレビのワイドスクリーンと同じ原理で、天井高が気になっていたのを緩和することができます。
多様な方法で、地下であるというデメリットを解消し、いかに入りやすく、長く滞在できるかという店づくりに心血を注ぎます。100%条件などはあり得ません。悪条件だからこそ、グッドデザインやグッドアイデアがあります。マイナスをプラスに変える発想こそが、地下の店舗づくりではポイントになってくるのです。

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中部経済新聞 2004年11月30日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第7回

美しい街並みを守りながらデザイン
店の雰囲気や内容をビジュアルに訴える

ロードサイド型店舗は大味なつくりに見えますが、実は様々な要素が盛り込まれ、繊細なデザインワークが要求されます。
店舗の役割として大切なポイントに、看板やサインなどの「情報伝達」が挙げられます。同時に店の「雰囲気や世界観」を伝えることも大切です。両方の要素が融合して初めて郊外店として成り立つと思います。それぞれのスパイスの効き具合をうまくまとめるのが空間デザイナーの仕事であり、技量の見せ所でもあります。
その要素として購買意欲をスムーズにかき立てるシナリオが大切です。もちろん業種・業態などを考慮し、その店にとって最適なシナリオを考えていきます。 客の行動パターンは、広告やDMを見てその店に向かう場合が多く、そういった客に対しては、いかにスムーズに駐車場へ誘導するかがポイントになります。広告塔などが数百メートル手前から確認でき、どこから入り、どこに駐車できるのか、といった明確&円滑に誘導するためのサインがカギを握ります。
そのため、店舗が密集するエリアにはサインが氾濫することになります。中には、目立っているだけで意味のないサインや、サインがサインを隠してしまったりしているケースも見かけます。客の立場に立って考えると、逆に分かりづらくて、入りづらい店になってしまうのです。
過去に手掛けたロードサイド型店舗は、過大な看板をあえて出さずに、高さ7メートルの吹き抜けを外からシースルーにして、店内の雰囲気を手に取るようにわかるようにしました。そこに大きな看板の役割を持たせています。この店舗は和菓子屋ですが、サインも考え方によっては様々な手法があると思います。
成功のカギは偶然の客を、どの程度獲得できるかです。「あっ、あれ何?」「そういえばあそこにあったよね」というように、記憶を辿ったり、たまに通ったら気になって入ってみたくなったり、こういった人が来店する確立を高くすることが、物販でも、飲食でも基本だと考えます。客は時速5~60キロで走りながら決めるため、何が店の魅力なのかが明確に伝わることが重要です。
ビジュアルに訴えるということはある意味、デザイナーの技量が問われるところです。最近は新築物件だけではなく、改修して業種・業態をまったく変え、店舗の雰囲気をすべて消してしまうこともあります。正直なところ、新築よりも難しい場合があります。
限られた箱の中でガラリと変えてしまうのですから、空間の整形美容みたいなものです。陰影をどの部分に取り入れるのか、ポイントはどうするか、いかに美人に変身させるか、個性的に見せるのか。まさしくTPOと同じ考え方です。昼のお店なのか、夜が中心なのか、それとも24時間なのか、それぞれのシーンを想定してデザインワークを進め、コンセプトの骨格を決定していきます。
最近増えてきた、決して美しいとは思えない過大なサインや照明。それを否定はしません。ただ、街並み全体の景観やバランスをしっかりと視野に入れて、美しい街並みづくりを考えていきたいものです。

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中部経済新聞 2004年12月7日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第8回

空間デザイナーの役割
店舗のソフトからハードをトータルにプロデュース

私たちの仕事が分かりづらいという声を耳にします。特に、建築設計士と空間デザイナーはどこが違うのでしょうか。今回は、その点をお話しましょう。
空間デザイナーは、住宅のインテリアデザインだけではなく、店舗の企画や立案など、商業的な分野まで多岐に渡ります。住宅か店舗かで大きく分けられます。住宅であれば居住性とライフプランの構築から関わり、店舗なら経営とデザインが一致した構成になっているかが重視されます。私の仕事の多くは、店舗デザインです。
よく手掛けているのは店舗付住宅で、ひと昔前までは、店舗さえあれば二階は住めればいいという考え方でした。現在では居住スペースにクオリティーを望むオーナーが多くなりました。住宅と店舗デザインの同時進行。私が最も得意としている案件でもあります。
建築の場合、建築士を交え、構造や法規をします。法的な障害をいかにデザインでカバーするかが、腕の見せ所でもあります。その部分こそ、商業にとって重要なファクターとなります。
飲食店の場合だと、回転率や満席率、営業時間などをしっかりと考慮してプランを立てます。ランチ提供の有無で、プランはがらりと変わります。客単価でも演出は変わります。たとえばテーブルの高さを数センチ上下するだけで店の雰囲気は大きく変わるのです。高くなれば姿勢を正し、低ければカジュアルに食事をとる雰囲気になります。テーブルに当てる照明をソフト、シャープかで演出にも幅が生まれます。
このようにソフトからハードな部分までトータルで分析、判断して演出し、プロデュースできるのが空間デザイナーであると考えます。
常に心掛けているのは情報収集です。短時間で情報を集めるには、書店や図書館でしょう。でも、建築分野の情報は意図的に避け、ファッション誌や情報誌に目を向けます。そこには流行やライフスタイルの提案、生き方の主張など、様々な分野の情報が満載されています。時代の流れに商業も影響を受け、社会情勢も反映されます。ファッション誌は、既成概念を打ち破り、頭を開放させてくれるツールでもあります。
私たちの仕事には法的な条件があり、それが障害となってデザイン変更を余儀なくされることがあります。そんな時は、すぐにスイッチを切り変えて違う提案をなくてはなりません。プランを成立させるために譲歩できない時は、ぎりぎりのラインを攻めることもあります。行政などの指導で何度も足を運びながらデザインを詰めていきます。あきらめない攻防が、店舗成功へつながると確信しているからです。
そうした経過をへた店は、子供のような愛情を抱きます。満席でも、店の端でスタッフと一緒に喜びを分かち合う時が、至福の時と言えます。
空間デザイナーは、店をつくるだけではなく、様々なシチュエーションを頭に置く必要があります。出会いの場をドラマティックに築き、文化づくりに貢献しなくてはなりません。一人でも多くの人と関わり、ものづくりに没頭したいと常々思います。

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中部経済新聞 2004年12月14日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第9回

三位一体の信頼関係
職人の価値観や技量把握。予算内に収めるのが手腕

現場監督と設計の両方の仕事をこなしていた若い頃、職人とのコミュニケーションに悩みました。十数年前の職人は、頑固気質で、二十代の言うことに、耳を傾けてはくれません。設計の思いは伝わらず、挙げ句の果て、図面のミスに対して揚げ足をとる始末でした。
価格交渉も、施主はできるだけ低価格で仕上げてほしい。職人は工賃を値切られたくない。会社の利益は確保しなければならない。板挟みで、胃が痛みました。ちょうどバブル期、職人たちの仕事は潤沢でした。
いいものを創るために、職人とどう向かい合えばいいのか。考えずいぶん悩みました。
ある現場の家具職人のことです。厳しいスケジュールの中で、夜中に現場に来てもらい作業をしてもらいました。約百坪の飲食店で、仮設状態なため照明もしっかりしておらず、店内の雰囲気もわからない中での作業でした。淡々と取り付けを終えると、笑顔ひとつ見せずに帰りました。
後日、店が完成した写真を手に彼のもとに向かいました。「作っていただいた家具です。こんな雰囲気の店に仕上がりました。ありがとうございました。」
彼らの仕事に対する姿勢がガラリと変わりました。図面をしっかりとみてくれるようになり、何度も電話がきました。家具の図面ではなく、その周りはどうなるのか、これまで気にかけなかったことを問うようになりました。十年ほど経過した今、お付き合いはさらに深まっています。
左官とは、こんなこともありました。「美しく塗るのが仕事なのに、なんで汚い塗りを求めるのか。何がしたいんだ」といわれ、押し問答になりました。イメージを何度説いても、理解してくれません。
お願いした手法は、現場にあるブリキの切れ端をギザギザに切ってコテにして、意図的に変則にしたり、木材の切れっ端を、綺麗に塗った壁に押し当て波状を作るという、常識を外れた作業でした。スーツを投げ捨て、「自分でやる」と意地を通し、壁塗りをしたこともありました。当時は必死でした。
業者や職人をどう動かすかが重要です。彼らに信頼してもらうことも欠かせません。相見積もりも一つの手段ですが、職人たちの価値や技量を把握していれば、なにも天秤にかける必要はありません。デザイナーや設計士は、それらを把握し、予定内に着地できる技量が求められます。
「施主」と「職人・業者」、「デザイナー」の三位一体でひとつのプロジェクトを創るという姿勢が大切なのです。当社のスタッフにも言います。「施主を愛して、職人たちを愛して、会社も愛してください」と。どれも欠かせません。スタッフは大いに悩み苦しんでいます。けれど、そこに成功のカギがある、と信じています。

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中部経済新聞 2004年12月21日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第10回

客導線とスタッフ動線
客席までをストーリー化。食事への期待感を高める。

飲食店のをプランする際、客単価の設定により、発想は大きく異なってきます。低め設定であれば回転率の高いプランを、高め設定であればイメージを前面に打ち出します。どんな形でサービス提供するのかということをオーナーと打ち合わせをしていく中で、カギとなってくるのはやはりスタッフの動線と客導線に帰結します。
飲食店は、スタッフの動きやすさも重要です。しかし、来店客が短時間で席に着くことができ、食べて帰るだけの機能は満たしていても、食事や雰囲気を楽しむことはできません。リピーターとして何度も来店していただくのは難しいのです。デザインの優れた店舗であっても、維持することは困難になってきます。
来店客が席に着くまでの間をストーリー化することにより、食事に期待感を高めることができます。提供する食事やサービスが行き届いていれば、満足度はさらに深まります。そのための長い導線が効果的と言えます。
手掛けた事例として「はんなり師勝店」があります。京風町家のコンセプトで設計し、入り口に案内係のフロントがあり、その横には雰囲気のあるバーがあります。様々な種類の酒が陳列されていて、調理場の風景が見えるようにもなっています。多少の待ち時間も、来店客は見て楽しむことで解消されます。逆に、待ち時間の間に期待が膨らみます。
案内する導線はあえて長い廊下を歩いて着座するようになっています。その時間を少しでも長く感じるように、鏡のミラー効果を狙ったり、廊下の奥に赤い太鼓橋を設置して、間接照明で遠近感を強調するなど、様々な工夫を凝らしています。回遊する楽しみを提供する時間も大切と考えています。
肝心なのは案内するスタッフは来店客と同じ距離を歩くのではなく、約半分の距離でサービスできるように、近道が組み込まれているということです。大小個室やテーブル席、宴会席や様々な空間で構成することで、TPOによって使い分けることができるよう設計しています。
他にも様々なスペースにストーリーづくりを盛り込んでいます。着物のような柄を部分的に採用することで京風イメージを高めたり、古いモザイクタイルで懐かしさを醸し出したり、アンティークショップで買い付けた素戸で雰囲気を高めるなど、遊び心を重要視しました。すべては来店客に期待感を高めてもらうためです。
高回転率を狙うのなら、ファミリーレストランやファーストフードは理にかなった設計でしょう。しかし、それではストーリーが浅く、来店客の期待もしぼんでしまいます。
地域に根づくという思想で店づくりをするなら、オンリーワンのストーリーを持たせることが不可欠と考えます。期待感を胸に来店する客の存在が、息の長い店舗にするのではないでしょうか。

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中部経済新聞 2005年1月11日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第11回

店舗のライティング
様々なシーン演出。空間に表情与える。

店舗のプランニングに欠かせない重要なアイテムとして照明があります。照明を工夫することにより、様々な演出が可能になり、様々なシーンを創り出すことができます。最近多いのが、ローコスト予算という条件。こんな時は、照明をいかに上手に使いこなすかが大きなカギとなります。
照明は単純に空間全体を照らすだけではありません。照明と空間が一体となって空間に表情を与える間接照明など、演出方法によっては店舗そのものの付加価値を高めることができるのです。ダウンライト(天井埋め込み型の照明)を連続的に配置して空間にリズムを持たせたり、ひとつのオブジェとしてペンダント照明(吊りタイプで意匠的な照明)を使うなど、店舗デザインにおいて照明は大変重要な役割を占めています。
私たちは何百種類の物の中から適正な照明器具をセレクトしますが、その際にはオーナー様の承認も大切だと考えています。
たとえば、料理を美味しく演出するランプで、ハロゲン系のランプがあります。しかしこのランプは通常のランプよりも若干高価なうえ、付けるとなれば複数設置します。ランプの交換時期を約一~二年とすると、案外無視できないコストです。そういったお話を交え、ランニングコストのご説明もさせていただいています。
プランをオーナー様にご説明する際、最も説明しづらいのも照明です。特に、ランプの出す色について説明をするのがとても難しいのです。業界ではケルビンという単位で色温度という数値のもとにメーカーとの綿密な打ち合わせを行いますが、そういった単位も初耳のオーナー様にはなかなか理解しづらいのも当然のことです。そんな時は、オーナー様といろんな店舗を見てまわり、同様のものがあればそれで説明したり、もしくは当社ショールームで試験店頭で確認・理解をいただいています。
ロードサイド店舗でよく要求されるのは、昼間に外から店内を見ると照明が暗く感じるのでもっと明るくすることはできないか、という要求です。野外の照度は極端に明るいため、この現象は当然起きうることです。対策として、照明を増やすというのもひとつの方法ですが、ただ単に増やすのでは天井は照明ばかりになり、美観も損ないます。ランニングコストも気になってきます。そんな時は、外部から一番見えやすい壁面を利用し。壁自体を発光しやすい白系の配色もしくはイメージカラーを使用して、天井の際から照度の強いランプをプランします。それにより壁全体を光のシャワーのようにすることもできます。もしくはスポットライトを何灯か利用してシャープな演出を行い、壁面全体で照明効果を創り出すこともできます。こういった手法を店舗の業種や業態に合わせて使い分けています。
年末なだけに、夜のライトアップを街の所々で見ることができます。最近では住宅街の方達が自宅をライトアップして道行く人の心を和らげています。まさに照明は使い方により、刺激的にしたり、人の心を癒すことも和ませることもできる重要なアイテムなのです。それだけに奥は深いものだと常に実感しています。
店舗デザインとは切っても切れない光(照明)。いかに光を手足のように操ることができるか、ということもデザイナーの技量のひとつであると考えています。

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中部経済新聞 2005年1月18日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第12回

店舗の空間配分
幅広い年齢層に照準。快適空間を創造する。

飲食店の商業デザインは、様々な視点から多種多様な要求があります。店舗の業態が様々なスタイルに変幻自在であったり、TPOに使い分けることができるようにしてアイドリングタイムを出来る限り少なくするなど、効率の良さを追求したお店が求められています。
よく聞くキイワードは「個室空間」「カップルシート」「掘りごたつ席」そして「バリアフリー」。そういった様々なシーンを想定して、お店側は空間を創り出していきます。例えば、100坪前後の飲食店で、客単価が三千円台という設定であれば、客席は約100-150席程度となり、いかにバランスよく様々な空間を創りだし、どこまで効率的に店を回転させることができるかがカギとなってきます。そして先ほど述べた空間構成のキ-ワードを想定して、空間の配分を決めてからデザインワークに入ります。
最近手掛けた店舗の空間配分をご紹介します。入り口近くにテーブル席を約三十席設けました。この空間は「バリアフリー」になっていて、通路幅も車イスが通れるようにゆったりと設計しました。入り口近辺は、混雑を避けるためにどのみち広く通路を設定します。また、様々なシーンを創る中で段差は必要不可欠なこともあり、入り口近くとしました。こういった効率的な面積配分を重視しています。
テーブル席には車イスに対応した専用トイレを設置。広くて使いやすいだけではなく、間接照明を施しながら店のコンセプトに添ったデザイン性のある空間となっています。一般の方も車イスの方もどなたでも使え、しかも店の雰囲気を壊さない気配りを大切にしました。このテーブル席は、靴を脱ぎたくない女性のお客様もよく使っています。ストッキングだけで床を歩きたくない、ブーツなので脱ぐのが面倒などといったお客様への気配りです。また、団体のお客様がすぐに入ることができるため、結婚式の二次会などのパーティーにも対応できます。
奥へ進むと座敷席と掘りごたつ席がともに30-50席の配分になっています。どちらの空間もメリットとデメリットがあります。座敷席は、長時間座っていると足がしびれたりなど、お年寄りには辛い席になってしまいます。メリットとしてはテーブルを自由自在に配置することができるため多目的に空間をつくることができます。掘りごたつ席は、楽に座ることができるため長時間滞在されてもさほど疲れません。一般の方はもちろん、お年寄りの方まで、幅広い年齢層にご利用いただける席なので、店舗オーナーからの要望も最も高くなっています。
カップルシートは約十組設けました。カップルのお客様は二人の空間を大変重要視されるため、出来る限りスタッフの動きが気にならず、宴会などの声も聞こえないように配慮しました。この店は、二階がカップルカウンターとカップル用のソファ席になっています。
このように個々のお客様の様々な要望を受けとめることは、店側にとって大変な努力とサービスが必要となります。それができるお店こそが繁盛店になっていくのです。ただの飲食店ではなく、ホテルのコンシェルジュのような質の高いサービスが要求されているのでしょう。マニュアルに添ったサービスではお客様は物足りないのです。料理、人、空間のバランスの良いお店こそが、幅広い年齢層に愛され、その街に根づく店になっていくのではないでしょうか。

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中部経済新聞 2005年1月15日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第13回

右脳と左脳
求められるバランス。演出から客導線まで。

ここ数年、よく話題に上がる右脳と左脳。人間の脳は、右半分と左半分に分かれていて、それぞれが異なった働きを持っているということはご存知のことと思います。
一般的に右脳は、直観力や想像力などの芸術的なパートを受け持ち、左脳の守備範囲は数学、論理構築、読解力などとされています。
時々こんなことを耳にします。「空間デザイナーは感性が優れていなければいけない。だから右脳の動きが強いのでは」といった声です。否定はしませんが、私はバランスが大切なのではないかと考えます。一番良いのは、右脳と左脳がバランスよく共働いていることではないでしょうか。
たとえば、音楽のメロディーを感じたり、創り出すのは右脳の務めですが、曲の構成や編曲、アレンジなどは左脳が活躍します。マラソンでも、ただ走るだけではなく、レースをどう組み立て、その土地の高低差をどう分析して、といったところまで要求されます。右脳と左脳を共働状態にし、最大限に脳を発揮させることができたらどんなに素晴らしいことかと思います。
デザインワークに取りかかる前の打ち合わせで、オーナーから様々なご要望が出てきます。私たちは最大限にアンテナを張り巡らせて要望を感じ取る訳ですが、そのご要望の内容は「効率」を優先することであったり、「デザイン」を重視することであったりと実に様々です。その後予算の話となります。
そこで肝心なのは、何を最優先するのかということです。予算オーバーなどのトラブルが最終的に発生しないようにするためにも、デザイナーはデザインのことだけではなく、あらゆる視点から論理的に計算的に組み立てていかなければなりません。その際、方程式(常識)は大切ですが、必ずしも当てはめる必要はないと私は考えます。
感性が必要といわれている空間デザイナーの作業を、右脳、左脳に置き換えてみましょう。右脳はインテリアのイメージや照明効果、全体の空間イメージ、音楽、香りなどの発想を担当します。左脳は客席効果や客導線、スタッフ動線、トータル予算、さらには事業計画に至るまでを受け持つことになります。
周知の通り、現代の空間デザイナーには、右と左のバランスが求められています。施主の業種、業態などを把握した上でデザインワークを行い、バランスよく脳を働かせた店づくりを心掛けなければ、その地に根付いた繁盛店を生みだすことは、なかなかできません。
時代は刻々と変化しています。私たちも日常の「観察、考察、推察そして洞察」を磨くように努めています。状況調査をしっかりと手がけて、それを詳細に分析し、自分がデザインしている店舗に置き換えるーこの3つを踏まえた上でどう発展させるか。そんなことを考え、悩みながら、取り組み続けています。
トータルな感性は、空間デザイナーだけではありません。様々な分野でも、求められてくるのではないでしょうか。

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中部経済新聞 2005年2月1日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第14回

B級グルメ店
客回転と従業員効率。空間デザインで支援。

最近の依頼で圧倒的に多いのが、いわゆる「B級グルメ」といわれている店です。焼き鳥、焼肉、ラーメン屋といった気軽な店舗です。そういったお店は数多くありますが、オーナーは他店とは、何か違った魅力をと考えています。そこでデザイナーの出番となるわけです。客単価を安く設定した30坪程というケースが多いため、ローコストが求められます。そしてキ-ワードは「効率」。この効率は、大きく2つに分類できます。
ひとつは、スタッフの効率です。いかに少ない人員で店を運営できるか、ということですが、客単価が低い店では、人件費の比重が大きいのです。
先日も、ある焼き鳥屋から依頼があり、視察を兼ねて訪れた時のことでした。席数は15~6席で10坪程。カウンターの調理はほとんど一人でこなし、フロアスタッフもドリンクサービスを含めて一人で対応していま
した。
目を奪われたのは、カウンター内でのスタッフの動きの少なさでした。左右に二歩程の動きで、焼き、揚げ、生ものなどの調理、さらに後ろを振り向くとレジがあるといった具合で、絶妙な配置、無駄のない作業に感動しました。机上ではなかなか組み立てれない、現場ならではの発想と言えます。小さな店舗設計の難しさを改めて感じました。その際、オーナーとの交わした会話を紹介しましょう。
それは旅客機内で、フライトアテンダントが機内食を用意するスペースの有効活用についてでした。限られたスペースに何十人分もの食事がコンパクトに収納され、短時間で配膳される。これはまさに究極、こんなシステムがあったら人件費が削減できるんですが…という要望でした。「確かに」、と痛感しました。
私たち日本人は、狭い部屋をどうやって広く使うかという工夫が上手な民族だと思います。昔の和家具を見ても、小さな引き出しをいっぱい備えていたり、隠し箱があったり、料理の重を積み重ねるなど、先人の知恵や工夫に学ぶことは多いものです。
もうひとつの効率は、客回転率です。客単価を低く設定し、30歳前後をターゲットにするのなら、回転率は売り上げに大きく影響してきます。その際、工夫するポイントは、椅子やテーブルの高低差です。長時間座っていると疲れるバランスをあえて採用するのです。
カウンター席であれば椅子は少し高めにし、足が床に着かないよう、微妙な位置に設定します。かかとが浮いていると最初の1時間は楽でも、それ以上は疲れてくるものです。立ち飲みスタイルという手法や、バーのような背もたれのない椅子で、席効率を稼ぐという考え方もあります。居心地の良い雰囲気をつくり、長居できない椅子やテーブルを工夫する、といった具合です。相反する考えを、デザインに織り込むわけです。
今年もB級グルメ店が多く出店するでしょう。私たちも3~4月にかけて名古屋市内金山、鶴舞、堀田などに相次いで発信していきます。ひと昔前のB級グルメ店の再現ではなく、現代的にアレンジした新しい感覚の店舗に期待ください。そういった店が街を潤し、活性化させていく、原動力のひとつになっていると考えています。

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中部経済新聞 2005年2月8日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第15回

個人店とFC店
商品力などを分析し、マーケットを把握。

子供のころ、近くにラーメン屋がありました。お世辞にも洗練されているとはいえない、蛍光灯が切れていても放置しているようなお店でした。でも愛想のない頑固な親父さんが作ってくれるラーメンが、とにかく美味くて、よく通いました。お母さんもいつも元気で、お客様の注文を次々に聞いて回っていました。紙にも書かずにしっかりと覚えていて、お勘定の時に「はい、○百円!」とう具合で、子供のころに、いつもその記憶力に感心していました。
現代では、多くのラーメン店がFC化されています。全国に数百軒もできはじめ、なかには百席近いスケールの店もあり、メニューも豊富で店内も洗練されていています。注文もコンピュータ化されていて、スタッフも数日で仕事を覚えることができるというシステムを採用しています。経営に関しても、本部からスーパーバイザーがサポートに回り、経理情報はすべてコンピュータで管理され、自店の売り上げが全国で何番かというランキングも瞬時に分かってしまいます。他店との競争をあおりながらスタッフのモチベーションを上げていく、それもそれでひとつの手法です。本社の運営方法も非常にレベルが高くなってきています。
今やラーメン店までもがシステム化され、ひとつの外食産業になったのだと実感させられます。しかし、それに対して大きな危機感も同時にわき上がります。完全にパッケージ化された店は、人はいるけれど人が存在していないような、スマートすぎて温もりが感じられない。こんな感想を持つのは、私だけでしょうか。
地元に台湾ラーメンを食べさせる、有名なお店があります。「ちょっと辛すぎるよね!」などと文句をいいながら、数日後にはまた食べたくなってしまいます。店主と世間話をしながら汗を流しながら食べている。店主と言葉を交わしながらラーメンをすすることも、今では少なくなってしまいました。
中小飲食店のオーナーにとっては、難しい時代にさしかかっていると思いますが、裏を返せば、チャンスも転がっている時代ではないでしょうか。隙間は必ずあるものです。消費者が求めているのは商品力であり、それをサービス、人、技術、インテリア、ポップ、価格、環境などを冷静に分析してビジョンを立てていかなければ、ネームバリューのあるFC店には、太刀打ちできません。これが実情です。
味をかたくなに守っていくことは、素晴らしいことです。けれども、自分たちのマーケットがどこに位置しているのか、ということをしっかりと把握することも忘れてはなりません。FC店と同じ土俵に立たないというのも、戦略の一つと言えます。
空間デザイナーは情報やカルチャーなどを様々な角度から敏感に消費行動を読み取り、個人店オーナーにアドバイスをしながら、強い店づくりを支援していくことが役割と考えます。

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中部経済新聞 2005年2月15日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第16回

地域に根づく和菓子店
来店客が店内に滞在できる空間をつくる。

手掛けた物件で飲食店と共に多いのが、菓子業界。特に和菓子店からの引き合いは多く、何軒か実績があります。
昔の和菓子店は、決して広いとは言えない店舗と工房で、朝から夜遅くまで、夫婦で働きながらつくり、おいしい店もたくさんありました。地元独自の風味や食材を生かして、菓子職人の感性で作っていました。菓子という枠を越え、芸術的な作品もありました。庶民派の和菓子屋さんも存在していました。でも、この業界も価格破壊と後継者難で、生き残りもが難しい時代になってきました。
しかし、チェーン店や大型店では思いもつかない、地元に根づいた店舗もあります。例えば去年秋、四日市でオープンした夢菓子工房「ことよ」というお店があります。オーナーの岡本さんは、和菓子職人でありながら、絵画を描いたり書をたしなんだりと、まさにアーティスト。テレビの和菓子職人選手権にも出演されています。
岡本さんからは、何年も前から夢を聞いていました。先代から引き継いだ八坪(1坪は3.3平方メートル)の店をどう作り替えるか。たどり着いたのは、やはり“地域に根づくこと”でした。
この考えを根底に置き、具体的に処方を打ち出しました。売る行為も大切ですが、お客様に来店していただくことを主眼に、店に滞在してもらう空間を作ろうと考えました。大型店と商品点数で戦っても勝ち目はありません。まねのできない、違った土俵を重視しました。
店舗面積は三十坪。1/3を工房(実演スペース)に、もう1/3は地元の芸術家や岡本さんの作品を展示するギャラリースペースとし、残りを売り場スペースに充てました。三位一体の構成になり、オンリーワンとしての付加価値を生んでいます。
団子づくりをお客に見てもらえるように、実演スペースは店内正面に配置しました。生菓子のショーケース、花柄のモザイクタイルで一体化し、店のシンボルにしました。ギャラリースペースは多機能に使える構成で、季節のイベントや器などの作品展示、パーティーにも使えるよう工夫しました。街のカルチャー・アートを発信するスペースとも言えます。売り場は“動き”をテーマに季節の移り変わりに応じ、ディスプレイも可動スタイルを採用しました。
売り場面積を少しでも広く、というのが一般的な考え方ですが、和菓子の世界では、日本の文化やオーナーの思想、感性なども重要視されます。結果的に、それが消費者の購買意欲へつながります。商品を販売するというスタイルではなく、オーナーの思想が伝わるような店作りに努める。そういった店舗が地元に根づき、息の長い店になるのではないでしょうか。

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中部経済新聞 2005年2月22日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第17回

地域に根づく洋菓子店
ライフスタイルを店舗空間に織り込む

地域に根づいた和菓子店を前回、ご紹介しました。今回も大型店に負けない店づくりとして、豊橋のフランス菓子工房「フレ・ドゥ・クリュー」取り上げましょう。オーナーの佐藤さんは、若くから関東、神戸で洋菓子の修行を積み、地元で店を構えました。計画当初から、「納得できるものだけを売りたい」という姿勢を崩しませんでした。素材を手に取り、目で確かめ、納得できる材料だけで仕上げる。看板商品の「半熟チーズ」も、フランスとオーストラリア産のそれぞれの特徴を生かして、オリジナルブレンドで仕込みます。そんな職人気質、繊細なパティシェとしての技に惚れ込み、作業を進行させました。
外観のイメージは、フランスのカントリー風です。数年で陳腐化するものではなく、継続を念頭に置きました。ジェラードショップも検討していることもあり、将来も織り込んで描きました。
店入ると、左手に工房が一望できるように配置しました。なに一つ隠すことなく、すべて手作りにこだわる職人気質が見て取れます。安心や安全面に配慮し、偽りのない姿勢を前面に出しました。スタッフにも緊張感が生まれ、逆に励みになる相乗効果も得られます。
広さは15坪(1坪=3.3平方メートル)程です。アットホームで和んだ空気を創出する空間に気を配りました。フロアにイタリア産のアンティーク調タイルを、腰壁にモザイクタイルをあしらいました。中央の照明はフランス製を採用し、ポイントにマンダリーヌカラー(オレンジ系の果物)を配色しました。素材にこだわり、軽くならないよう、重すぎないように注意を払いました。。
店内の中央には、イベント性を持たせた商品陳列を置き、什器の下からは引き出し式のステージが、二方向から出るように細工しました。ディスプレイスの拡大や分散も可能にするためです。小スペースの店舗では、様々なことに対応させるのがポイント。洋菓子店では催事が多く、この考えは不可欠といえます。
現代は「一人二極化消費」と表現されます。一人のお客がワンランク上と下の消費を、抵抗もなく使い分けるライフスタイルです。バッグはルイヴィトンなのに食べ物はファーストフードと、アンバランスだけど、それが現代の様相なのです。ひと昔前とは、明らかに異質です。そのバランスを読み違えると、商業は苦戦を強いられると思います。そういった世相を、いかに店舗に取り込み、成功につなげていくか。それがデザイナーの使命だといえます。

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中部経済新聞 2005年3月1日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第18回

老舗和菓子屋の挑戦
今回は、和菓子屋さんの老舗「恵那・川上屋」さんの、新業態のお店についてご紹介します。

岐阜県土岐市内に去年の秋、道の駅がオープンしました。その中に出店された、恵那・川上屋さんがプロデュースする「里の菓茶房」は、全国各地の厳選素材を集めて、それを加工して提供するという、和菓子の老舗としては、まったく新しい発想の業態です。
道の駅という場所柄、お客様は観光の方がメインとなりますが、単なるお土産屋さんではなく、地元の方にも利用しやすい店づくりを目指して、デザインワークを進めました。和菓子だけではなく、洋菓子やスイーツなども販売しており、二階には、ゆっくりとくつろげるカフェスペースも設けられています。
店内に工房があるため地元の方がケーキや洋菓子を予約されたり、ご贈答で使っていただくことも多く、一方、観光の方は、お土産コーナーもしくは二階のカフェで飲みものと一緒にケーキやお菓子を召し上がる方が多い。地元の方と観光の方、どちらにも愛されているのです。
季節を楽しんでいただけるように、二週間に一度、和菓子・洋菓子にこだわることなく、イベントをされていますが、それに対応できるよう、陳列什器も可動式になっています。また、分解可能な什器を多くし、スペースを変幻自在に使い分けることができるようになっています。また、商品の見せ方についてもこだわっていて、品のいい小型のショーケースの中には、商品説明とディスプレイがあり、その横に商品を積み上げるなど、商品の付加価値を落とさないように様々な努力をされています。
恵那の栗を使用した「栗きんとん」にこだわり続けてきた老舗なので、本来ならば、それを作り続けていくことが王道なのかも知れませんが、恵那 川上屋さんは、商品開発やパッケージづくりなどにも力を入れ、新たな展開に進もうと邁進されています。
打ち合わせのやり方も、それぞれの分野のクリエーターが集合して、パッケージから制服、インテリアのテーマカラーに至るまでのすべてをクリエーター同士でディスカッションして決めていくというやり方です。だから商品と空間のズレがないのです。お店を仕上げる上で、大変重要なことだと思います。
地元のいい素材だけを使用するという店の基本コンセプトを貫いて、タイルも地元のタイルメーカーにテーマカラーの小豆色を特別に配色していただきました。シックな小豆色との相性を考慮し、タモ材のムクを有効に使用して、和菓子のショーケースを制作し素材感を演出しました。
私たちデザイナーの仕事は、洋服の仕立屋さんのようなもので、商品という素材やそのコンセプト、理念というボディがあって、そのサイズに合う服を仕立てるという感覚です。いい店をつくるためには、しっかりとした理念が必要不可欠なのです。そういったこだわりが付加価値を高めて、そのお店のブランド力を強くしていくのではないでしょうか。

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中部経済新聞 2005年3月8日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第19回

人材づくり
財産となる戦力が魅力店には必要。

店舗オーナーとの打ち合わせで話題になるのは、資金、物件、業態コンセプトが挙げられます。中でも最近、とくに多いのが「人材」の問題です。
アルバイトの採用で頭を抱えている中・小規模の店舗は多く、募集しても、なかなか集まらないと耳にします。中部国際空港セントレアの開港に続いて、愛・地球博の開催、さらに栄・金山近辺の大型商業施設のオープンが控えています。人材がビックプロジェクトなどに流れているようですが、それにしても反応は鈍いようです。
少し前なら、募集をかければ何十人も応募があり、その中から店の考えに沿った人材を安易に採用することが可能でした。つまり「買い手市場」だったわけです。それだけに今後、「人を育てる」という考えが不可欠と言えるでしょう。
私たちが進めているプロジェクトで、欠かせないテーマとして「普遍性ある店づくり」があります。時代や環境に左右されない、理論的に構築された店づくりを示しています。それはサービス、空間、料理、環境など、店舗として質を高めるということです。焼鳥屋でもフランス料理店でも、その使命は同じであると考えています。軸にブレない店づくりが、不況に強く、失敗しない店をにつながると思います。
FC店は、人材教育からオーダーの取り方まで、すべてシステム化されています。合理的で、理にかなった仕組みと言えますが、来店客とのふれ合いや温もりに欠けるように感じます。魅力店をつくるということは、店舗や商品の質だけではなく、財産ともいえる貴重な戦力が何人いるか、ということも重要な要素なのです。
バーを例に挙げると分かりやすいでしょう。バーテンは客一人ひとりの好みや性格までも熟知し、常にベストな状態で対応します。かつてのバーテンは、そういった教育を仕込まれて、初めて一人前とされました。「あのお店へ行こう」ではなく、「あの人に会いたい」と来店動機を促す店は、息の長い店になっていくはずです。
一番難しいとされる、人と人とのコミュニケーション。目上の人との会話、敬語を使う機会が少なくなった若者たちは、言葉の使い分けがうまくできないのです。そういった部分を、マニュアル的にではなく、いかに教育していくかがポイントであると考えます。「アルバイトだから責任はない」という気持ちで仕事に着くのと「アルバイトだけど、この店の方針が好き」という気持ち接客するのでは大きく異なります。客は飲食に舌鼓を打つだけでなく、時間も楽しむのです。本能的に感じる心地よさを、スタッフにも客にも伝えなければならないのです。

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中部経済新聞 2005年3月15日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第20回

街の美観や環境
土地の持ち味や、個性を引き出す

名古屋の中心部や周辺地域には様々な商業施設や公共施設ができ、便利で元気な街という印象が強くなったようです。でも、街並みの美観や環境という視点に立って見てみると、どうでしょうか。
名古屋デザイン博覧会が開催され、「名古屋デザイン都市」を宣言したことは記憶に新しいところです。十数年が過ぎた今、どう変化し、どうデザイン都市に生まれ変わったのでしょう。疑問も沸きます。
消防や設備について名古屋は制約が大変厳しく、安全性に優れていると思います。しかし、看板や色の規制はほとんどありません。規制がないのなら自由でいい、と思われがちですが、あまりにも誇張されたり、刺激のある看板が生活する街にあふれ出したら、どうでしょう。美観や雰囲気は一変してしまうでしょう。
万博を開催する今年からでも、「デザイン都市名古屋」として、街並み環境を考え、目立つ精神ではなく、企業ポリシーが訴求でき、人の心に訴えるものをつくっていく必要性があるのではないでしょうか。そういった機運が、クオリティーの高い街の原動力になると思います。
名古屋市内だけでなく、周辺の街も活性化していくことが、成熟する都市名古屋に発展すると考えます。例えば東京であれば横浜や鎌倉、大阪なら神戸や京都など、周辺に魅力ある街が控え、そこに商業としてのストーリーが生まれてきます。
先日も仕事で、一宮、大垣の駅前のアーケード街を視察してきました。一宮は繊維の街として一時は活気があり、大垣は水に恵まれ、駅前には老舗の和菓子店が立ち並ぶ、情緒のある街です。そんな街に今、若い人達が少ないのです。この沈滞ムードを払しょくし、名古屋市内との温度差をいかに縮めることができるかが、名古屋の街の発展につながると考えます。こうした「空っぽ現象」は、名古屋市内でも発生し、ぽっかりと空いてしまった街がたくさん存在しています。
クライアントとの打ち合わせの中で、こんな話題が上がります。名古屋駅や金山周辺なら、すぐにでも出店したいという企業が何社もある。そういう動きが地価の高騰化を招き、地元よりも資本力で勝る東京などの飲食店が、魅力的なエリアへどんどん出店していくようになる、という内容です。結局、同じ土俵で戦えば、地元オーナーは苦戦してしまう。残念な現象です。
悪循環を断ち切っていくためにも、いかに特化した街づくりができるか、ということが重要になります。土地独自、特定の年齢層に特化するなど、発想方法は様々です。大須のアーケード街は、ひとつの成功例ではないでしょうか。その土地の持ち味や魅力が伝わり、本来の個性を出していくことが可能なのは、やはり地元の企業や中・小店舗だと考えます。

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中部経済新聞 2005年3月29日 「商業デザインの景観・風景・風土」/第21回〈最終回〉

リノベーションという発想
旧店の失敗原因を探る。基本構造を生かして改装。

今、この春オープンに向けて様々な店舗のプロジェクトを同時進行しています。オーナーは東海三県の中小企業で、新築物件よりも居抜き物件の多いことが最近の特徴です。なかでも、FC店舗の居抜きが多く、言うなれば、店舗のビフォア&アフター的な仕事が多くなってきました。
居抜き物件で難しいのは、業種・業態によって厨房面積の配分やテーブル席の配分も違い、そのまま使うとなると効率が悪くなる可能性もあります。いかにそこを見極めてプランニングしていくかが成功へのカギとなるのです。
また、大手FCが出店したということは、店舗オープンの初期段階では勝算があると見ていた訳です。そのお店の何がいけなかったのか、私たちは再度分析にかかります。初期の頃にはなかった周辺環境の変化、例えば周りにあるお店、道路計画、街の開発など、様々な変化により、人の流れが変わったのか。もしくは、お客様の価値観の変化なのか。交通事情や駐車場計画なのか。あらゆる切り口を想定して、ひとつひとつ分析していきます。
現状の店舗をじっくり見ていると、後から手直ししている部分が、身体の傷跡のようによくわかります。使っている内容でもわかります。こう手直しした方が現場のスタッフは使いやすかったんだな、なるほど・・・そういった内容などをオーナー様とディスカッションしながらデザインワークに取りかかるのが、当社の仕事の進め方の基本です。店舗の夜の顔、昼の顔、分析結果を盛り込みながら最終的に予算の調整に入ります。
改造は店舗の美容整形のようなものであり、基本的な構造や一次側の設備にはさわることなく、傷跡が残らないようにどうメスを入れるか、後遺症や副作用が出ないようにするにはどうしたらいいのか、などを考慮しながら進めていくためある意味、新規物件よりも難しいといえます。
以前、木造二階建の店舗を改造している際のことです。図面にはない梁が出てきて、予定していたダムウェーター(配膳用のエレベーター)を取り付けることができないというトラブルが発生しました。その時は対応できるメーカーに変更して設置しましたが、このような時、できない困ったではなく、どう迅速に対応するのかということが大切です。
同じ建物なのですが、一部分の解体を行い、そこで出てきた趣のある梁やらんまをうまく使いながら飲食店舗をつくっていました。現場でサイズを確認しながら工事を進めるしかありませんでした。工事は難航し、工期ギリギリ前の三日間は、私たちも職人さんも現場監督さんも、皆で現場に泊まり込みになったこともあります。
店がリフレッシュして生まれ変わった時、あのお店がこんなになったんだねと、その変わりばえに驚き、喜んで頂けます。壊して建てる、いわゆるスクラップ&ビルドも街の発展には必要かも知れませんが、すべて壊さずに基本を活かして生まれ変わるリノベーション(再構築)的な発想を私は大切にしています。そこにあるものを活かせばコストダウンにもつながりますし、使用する建材や部材も少なくて済むため地球環境配慮にもつながります。
今回をもちまして連載を終了となります。私にとって意義のある連載でありました。これからも色々な人と出会い、色々なドラマをつくり、この職業をとおして社会に少しでも貢献できるようもっともっと精進していきます。そして名古屋をずっとずっと愛し続けたいです。
本当にありがとうございました。
企業もデザイナー、そしてクリエーターも、名古屋を愛する皆さんそれぞれが、次世代へつなぐ岐路に立っていると思います、愛知万博の年に再生し、ひとつ上のステージに立つ街になってほしい。痛切に感じます。
重要になってくるのは、オーナーのモチベーションの高さですが、それを支援するのもデザイナーの役割ではないかと考えます。地域に愛される、普遍性の高い店づくりが使命と受け止めています。

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